ビザなし交流で国後島を訪れていた時に、北方領土を戦争で取り戻すことを肯定するかのような発言をしていた丸山穂高衆議院議員に対して、2019年6月6日衆議院は糾弾決議を可決しました。
糾弾決議を可決した目的は、「丸山議員が直ちにみずから進退を判断するよう促すこと」でした。
それを受けた丸山議員はすぐさま、
ただちに自ら進退について判断を。仔細は議運への提出文書の通り、行蔵は我に存し毀誉は他人の主張にて。その任期を全うし前に進んでまいります。
衆議院議員 丸山穂高— 丸山ほだか (@maruyamahodaka) 2019年6月6日
とツイッターで返事をします。
「行蔵は我に存し毀誉は他人の主張にて」とはどういう意味なのでしょうか?
「行蔵は我に存し毀誉は他人の主張にて」の意味
「行蔵(こうぞう)は我に存(そん)し毀誉(きよ)は他人の主張」は、江戸時代末期から明治初期にかけての大政奉還で貢献した「勝海舟」の言葉です。
勝海舟が「行蔵は我に存し毀誉は他人の主張」と発するに至った背景を見ていきましょう。
徳川家旧幕府に仕えていた勝海舟
大政奉還後の1867年、勝海舟は政権を朝廷へ返上した15代将軍徳川慶喜に仕えていました。
大政奉還後、明治新政府は旧幕府が持っていた江戸城を奪うことで、徳川家を衰退させたいと考えていました。
旧幕府の陸軍総裁だった勝海舟と徳川慶喜は、江戸城を明治新政府に明け渡すことを決めます。
しかし、旧幕府に仕えていた多くの大名たちは、自分たちの権力を失ってしまうと思い、江戸城を明治新政府に明け渡すことに反対していました。
仲間を首にして江戸城を明治新政府に明け渡すことに成功した勝海舟
旧幕府の勝海舟は江戸城の明治新政府への明け渡しを反対する次々に仲間を首にします。
そして最終的に勝海舟は明治新政府と争うことなく、江戸城を明け渡すことに成功します。
勝海舟のおかげで、江戸城を明治新政府に明け渡すときに日本国内で旧幕府と明治新政府との間で戦争が起こらず、犠牲者をださずに済んだのです。
江戸城の明け渡しは1868年、勝海舟が45歳の時でした。
勝海舟はその後、明治新政府で海軍の発展に貢献しています。
勝海舟の江戸城明け渡しを否定する福沢諭吉
江戸城の明け渡しから24年が経った1892年、勝海舟が69歳の時に福沢諭吉は勝海舟に手紙を送ります。
57歳の福沢諭吉は勝海舟をこう責め立てました。

勝海舟は、戦争をせずに明治新政府に江戸城を明け渡した。無駄な死者を出さないということでは良いことだったのかもしれない。
しかし、多くの兵士たちが戦う気持ちを失ってしまった。この士気の低下は、明治以降の日本の軍隊に永久に悪い影響を及ぼす。
長期的に見ると、戦争をせずに江戸城を明治新政府に明け渡したのは判断ミスだったのではないか?
勝海舟は旧幕府軍と明治新政府の争いを避けて、血を流すことなく江戸城を明治新政府に明け渡しました。そのことが、日本の軍隊の士気を永久に下げてしまい、弱体化して取り返しのつかないことになるというのです。
福沢諭吉の指摘を受け止める勝海舟
それに対して勝海舟はこう答えました。

ああそうだね。たしかに間違っていたね。ごめんね。
そして、

私が正しいことができたかどうか、あなたが批判してくれるのは大いに結構です。批判されることを私がどうこう言うことではありません。どうぞ、世間にあなたの意見を広めてください。

行蔵は我に存す。毀誉は他人の主張。
(私の身の振り方は私が決めます。褒められたり非難されたりするのは他人がすることです。)
と、福沢諭吉に返事をするのです。
私は私のやるべきだと思ったことを全力でやった。周りの人がそれに対してどんな批判をしようとも、構わない。そうやって世の中はよくなっていくんだよ、と言わんばかりの落ち着きっぷりですね。
丸山穂高議員の文章を意訳すると?
丸山穂高議員のツイッターでの返信には、勝海舟から引用した「行蔵は我に存す。毀誉は他人の主張」の文章があります。
その前後の文章と合わせて意訳すると次のようになります。
衆議院の糾弾決議が求めていた、直ちにみずから進退を判断することに対して、続けますと答えているのですね。
その結論の前に、議員を辞めるかどうかを決めるのは私であると伝えています。
これは、丸山議員が国会に提出した弁明書の内容と全く変わっていません。
これまでの基準や先例相当に照らせば、本件における議員の出処進退はその議員自身が判断すべきこと
出典:丸山穂高議員弁明書

まとめ:「行蔵は我に存す、毀誉は他人の主張」の意味
「行蔵は我に存す、毀誉は他人の主張」は勝海舟と福沢諭吉とのやり取りの中で出てきた文章でした。勝海舟は、福沢諭吉に24年前の江戸城の明け渡しを非難されたときに、
「(江戸城の明け渡しの結果の)私の身の振り方は私が決めます。(江戸城の明け渡しのことを)褒めたり非難したりするのは他人がすることです。」と、自分の視点と他者の視点とを区別して理解しているのです。
丸山穂高議員に対する糾弾決議が可決され、それに対して丸山穂高議員からツイッターで返信されました。「ただちに進退を自分で決めなさい」という要求に対して、すぐに「続けます」と答えた丸山議員。
「他人が何と言おうと、自分が正しいと思ったことをする」と言わんばかりの勝海舟の引用に衆議院は丸山穂高議員とどう向き合っていくのでしょうか?
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